アート共存社会

謎の深まる名画:ミレーの「晩鐘」

日本人なら誰もが見たことがあると思われる名画「晩鐘」ですが、改めて見てみると今まで気づかなかった内容を再発見できます

こちらフランスの画家ジャン=フランソワ・ミレーが1857年-1859年に制作した油彩画。美術史の授業でミレーは19世紀中期にパリ近郊のバルビゾン村でに滞在して風景などを描いた画家たち(バルビゾン派)と習いますが、そもそもバルビゾンってどこにあるのでしょう?

ということで調べてみるとパリ中心部から距離にして60㎞ぐらいの小村。東京~小田原ぐらいの距離感ということですね。都内での暮らしに疲れて小田原に移住してみるといったイメージでしょうか
(19世紀は交通が発達していないので実感としては違うでしょうが)

今回は古典的な絵画分析手法で「何が」描かれているかを見てましょう。
画面の上部1/3には空と遠景の街、教会の塔が描かれています。晩鐘というタイトルにもあるとおり、時刻は日没の迫る時間。画面左側に向かって太陽が沈んでいっているため、北東の方角に街が見える位置で、モデルとなる夫婦を南側から見たのでしょう。

中景には積み藁らしきものがいくつも描かれていることから季節は麦の収穫後の時期8月末~9月頃と推定できます。時間はパリの9月の日没時間が20:30なので19:30~20:00ぐらいでしょうか。

近景にはこの作品のタイトルにある通り晩鐘が鳴り響き、それを合図に農民夫婦が手を休め、農業用フォーク、籠、手押し車を置いて祈りを捧げています

今回改めて見て、気になったのは正確に三分割の構図になっていることです。地平線が画面の1/3を占めていることは分かりやすいですが、線を引いてみると人物の重心の線が三分割線上になっていて非常に安定した構図になっています。

写真やデザインでも用いられる三分割法自体は18世紀末には風景画に取り入れられていた技法ですが、ミレーは素朴な農民の生活をありのまま描いていたのではなく古典的構図の手法を取り入れつつ描いていたことが理解できます。

静謐な印象の作品ですがどことなく不思議な感じもあり、ダリは手前の籠を不自然と言って「子供を入れた棺ではないか」と言ったとされています。その真偽はともかく、この籠はなんだかおかしいような。

よく見ると芋のようなものが複数入った籠ですが農作業をするうえでなぜ籠が必要なのか。ピクニックをするわけでは無いので昼食を入れるための籠にしては大きすぎるような。しかも画面のほぼ真ん中の目立つ位置に。前述したように構図を強く意識して描かれた本作品において、なんとなく置いたとは考えにくいです。

次に気になったのが、女性の後ろに描かれている手押し車ですが、何が乗っているのでしょう?横たわる人が乗っているようにも見えます。

サスペンス的な解釈のためミスリードを導く要因となりかねませんが、この手押し車は非常に気になります。

続いて少しひいた視点で画面の反対側を見ると、ちょうど手押し車と対になるようにフォークの柄が描かれています。ミレー先生。いったい何を考えながら「晩鐘」を描かれたのでしょうか?

原点回帰で、「何が見えるか」で名画を分析をすると余計に謎が深まる結果に。

次回また別の作品で試してみましょう。

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