アート

生命のトロンプ・ルイユ

西武渋谷店で開催されている「深堀隆介 金魚愛四季」を観に行ってきたので感想を

西武渋谷店の催し物会場の一画で「深堀隆介~金魚愛四季~」は開催されていたが、平日の昼過ぎということもあり、他に来訪者もなく静かな空気の中で鑑賞をすることができた。深堀氏の個展は今回初めてだったが、初期のアクリル樹脂の作品から最新作まで、樹脂作品以外にも彫刻や絵画、インスタレーション等の作品が展示されており深堀ワールドに浸ることができた。

深堀氏自身も樹脂に顔料を立体的に封じ込めていく作品は絵画なのか彫刻なのか。と述べていたが、現代科学によって生み出された素材である透明なアクリル樹脂を用いてイメージを創造し影(魂)を生じさせる作品は次元を超えた美しさと、深い哲学性を感じさせられた。
樹脂作品を見ていると既視感を感じたが、記憶を手繰り寄せてみるとローマの聖イグナチオ・デ・ロヨラ教会の天井画で見たフレスコ画だった。

遠近法を利用して描かれた天井画は教会の閉ざされた空間に、天国へとつながる空が描かれ昇天する聖人や人々を眺める天使がトロンプ・ルイユ(だまし絵)で描かれている。17世紀バロック期においてはアンドレア・ポッツォは遠近法における錯視-遠近法も科学と言えるが-で空間の中にイメージを描いていたが、時空を超えて現代において深堀隆介は2.5Paintingを用いて新たな空間にイメージを描く技法を生み出したといえるだろう。

 木曽檜枡に封入したアクリル樹脂作品に金魚を描いた『金魚酒』は彼の代表作ではあるが、金魚の飼育経験があると分かるとは思うが小さな枡の中では-短時間を除いて-金魚は生きていくことはできない。その矛盾を秘めながら小さな空間に浮かび上がる艶々とした生命感。技術的な巧さだけでは説明できない感情の源泉を今回の個展で垣間見ることができたかもしれない。

デスノートと名付けられた深堀氏のもとで過去に飼育されていたが既に旅立ってしまった金魚たちの記録が披露されていた。金魚の種類、年齢、いつどこで入手してどのような最期となったのかが克明にメモされ、最期の姿を描いたスケッチ群だ。デスノートと名付けられてはいるが同時にラストラブレターでもあるように思えた。生き物であるが故、時として何が原因なのか分からないが急速に弱ってしまうこともある。愛する金魚にあれこれと手を尽くしたにも関わらず旅立ってしまった無念を経験していることが痛いほどに伝わってきた。その無念ゆえに生き生きとした躍動感と生命力が作品として生み出されたように思えてくる。

個展の終盤で深堀氏の制作風景の映像が紹介されていた。
彼は金魚を描くときに実際に対象を見ながら描くのではない。
金魚への想いを追憶しながら絵筆を動かすことで金魚に永遠の生命を与えさせているのではないだろうか。

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